52ヘルツの鯨

 愚か者の話をします。なんだかんだ言いつつこの書き方が一番書きやすいのです。呪われている、言葉は強いですけれど、所詮は私が私以外でなくなることが怖いだけなのでしょう。自分のことを自分以外の何かに当て嵌めて昇華して、そうやって生きてきたのです。この話は誰かの話ですけれども、でも私の話です。普段はこんなこと言いませんが、吐き出したいだけなのです。誰にも見られなくていいのです。……嘘、少しは見てほしい、かも。なんででしょう、苦しんでいることを言い訳にしたいのでしょうか。誰かに知らせて、私はこんなに可哀想な生き物なのだと叫びたいのでしょうか。愚か、愚か、愚かですね。私にとって一番の未知とは私かも知れません。てきとう言いました。それでは少し、ごめんなさい。

 最初に筆を取ったのは本当に気まぐれでした。幼かったので。たのしそう、それだけで書いてしまえるような時間も余裕も沢山あったのです。勉強は面倒で、楽しくなくて、楽しいことをしようと思ったのです。それが最初。きっと、多分。
 物語を紡ぐことは基本的には楽しい。その時は私の為に書いていました。私が楽しければそれで良くって、私が満足出来ればそれで良くって。面白さとか、何も考えてませんでした。文字数も、なにもかも全部。だって、私の為の話でしたから。
 一番最初に文章を褒められたこと、中学の先生でした。優しい女の先生。私は自分の書く文が他人より優れているのかもしれないと思いました。それと同時に、なら、なら私はそれに見合うだけのものを書かなくては、と。
 呪いの最初、いちばん、さいしょ。
 次は友人。たのしくって、獲物を捕らえた猫みたいに何回も見せて、褒められると嬉しくって。期待、みたいなものを勝手に見てて、期待されてるなら応えなきゃ、それに見合うだけのなにかを、それに見合うだけのものを。書いてて思いましたけど、こういう考え方っていうか、なんだろう。貢ぎ癖というか。が、私の根本なのかもしれません。返して返して返して、結局何が残ったのかはわかりませんが。
 でも当時はまだ少なかったのです。対象が。何かを捧げる、対象が。

 気まぐれでした。えぇそうです、本当に。気まぐれでしかありません。公の目に晒してみようと思ったのです。馬鹿でしょう。罵ってくれて構いません。望まれた分だけ返そうとする女が無限を相手にするのです。望まれるという意識すら曖昧であやふやな、勘違いでいくらでも増えるような期待を相手にしようと思ったのです。
 私をそれまで形作ってきたのは私自身の私自身による成功体験なんかではありません。そんなのは数えていないのです。私は誰かに掛けられた期待を返すことで数としてきて、価値としてきて、糧としてきたのです。
 そうして不運なことに、私はかけられても無い期待を本当に少しばかり増やしてしまって、努力してしまって、期待されるために少し頑張ってしまって、結果。
 勝手に病んでて馬鹿みたい。あぁごめんなさい、馬鹿でした。

 私は誰からも影響されない私になりたいのです。おかしいですね、私の価値を保証しているのは他人だって言うのに。プライドばかり育っていって、自意識ばかり育っていって、そうして自分が優れた人間だと思い込むことで生きているのです。そうでなければ、呼吸の意味すらわからないのです。私が生きてる意味ってなんなんでしょう。意味がある人間の方が少ないでしょうが、でも、私は意味が無ければ生きていけないのです。それに縋らないと一寸どころか足元まで闇に覆われているのです。
 一番になりたい。凡人だけれど。才能なんか欠片も無いけれども。鮮烈な現在として記録されて、そのまま変わらないでいたい。思い出とか記憶になるのは、少し怖い。希死念慮を逃げ場とし、都合の悪い話は全部知らんぷり。死ぬ気なんか欠片もなくて、いつか終わるって変な希望を夢見つつ寝床で丸くなるばっかり。

 天才になりたかった。100の努力は1の才能にすら及びません。世の中そういうものです。いくら努力したってペンギンは空を飛べませんし、いくら夢見たところで魚は陸では生きられません。そもそも私の努力って、結局自己満足なんですよね。誰にも還元されないから。……いや、これが努力ってもんなんでしょうか。したことないからわかりません。あぁなんかもう、ねむいかも。そろそろ終わらせます。ここまで読んでる人間いないと思うけど、ごめんね。

 創作は呪い。呪いです。私にとっては、呪いです。そう定義してます。そうやって縋ってます。そうやって依存してます。私の定義としています。だから多分もう少しだけ、続けます。聖人君子であったなら、もう少し呼吸が楽になったんでしょうか。来世なんか要らないから、だからもう少し、私の世界に酸素がほしい。もうちょっとだけ、私の定義があったらうれしい。

 それかいっそのこと、世界の全部が私から目を逸らしたら、もしかしたら、すくわれるのでしょうか。
 私の声も思いも誰にも届かなければ、諦めることが、できるのでしょうか。


 愚か者の話です。

0コメント

  • 1000 / 1000